病気をめぐる攻防①
別れたい理由 | 別れない理由 | 攻防の要点と結果 | ||
① | 暴力(妻が提訴) | 介護必要な身体障害者、妻の理解不足、男性交際等 | 破綻の程度と有責性──1審棄却──控訴認容──自省の跡が見られない(東京高裁H8.7.30判時1577.92) | |
② | 失外套症候群(脳腫瘍・摘出手術・脳腫瘍再発に起因する大脳活動の消失)のため植物状態で回復の見込みがない(夫が提訴──昭和51年婚姻、56年発病、平成5年禁治産宣告) | 妻が禁治産者のため後見監督人が被告、妻の生活、治療看護の手当て等 | 破綻の程度と苛酷状況──認容──①夫は、長年、妻の治療等に誠意を尽くし、②妻は植物状態になって4年、回復の見込みなく、③苛酷状況におかない配慮を示し、④子供達の養育についても不都合がない。一時金として300万円、終生にわたり月額5万円(横浜地裁横須賀支部H5.12.21判時1501.129) | |
③ | 妻が難病(脊髄小脳変性症)に罹患し、家事や育児に支障がある(夫が提訴──昭和47年婚姻、62年診断、2人の子あり) | 夫の主張に対しては争う | 破綻の程度と苛酷状況──1審認容──控訴審棄却──妻は日常生活さえ支障をきたす状態にあるが、知能障害は認められず、日常生活の役に立たないという理由だけで妻の座から去らすことはできない(名古屋高裁H3.5.20判時1398.75) | |
④ | 妻がアルツハイマー病とパーキンソン病に罹患(夫が提訴、判決時夫42歳、妻59歳、昭和46年婚姻、昭和58年アルツハイマー病の診断) | 後見監督人(弁護士)が応訴──アルツハイマー病は精神病ではない、妻の扶養確保が離婚の前提 | 精神病該当の有無・破綻の程度と責任──認容──民法770条4号の強度の精神病にあたるかどうかは疑問があるが、長期間に亘り夫婦間の協力義務果たせず、破綻は明らか(いわゆる「ボケ離婚」「悲しい離婚判決」として有名。長野地裁H2.9.17判時1366.111) | |
⑤ | 夫の不貞と交通事故の脳挫傷等による身体障害者等級第一級(妻が提訴、婚姻期間約9年) | 不貞は許されている、身体障害者で介護が必要 | 破綻の程度と責任──認容──不貞の事実を許したとは認められない、介護が必要だが妻及び妻の両親への思いやりがない。慰謝料300万円、財産分与300万円も認定(大阪地裁S62.11.16判時1273.82) |
病気をめぐる攻防②
別れたい理由 | 別れない理由 | 攻防の要点と結果 | ||
⑥ | 妻が精神分裂病(夫が提訴、昭和37年知り合い、40年婚姻、3児あり、夫は教師) | 人格的変化の少ない妄想型、完全治癒の可能性あり、夫にいたわり、思いやりのなさあり | 精神病該当の有無と破綻の程度責任──棄却──民法770条4号の強度の精神病に当たらず、妻は夫や子供らとの生活を希望、婚姻を継続しがたいとはいえない(東京地裁S59.2.24判時1135.61) | |
⑦ | 妻が性格がらみの精神分裂病、自己中心的・享楽的、家事不得手(夫が提訴、夫有名国立大、妻某美大卒、ダンスパーティーで知り合う) | 夫は有能だが、妻の家事、書く文字、化粧等まで批判、不貞あり | 同上──1審棄却・控訴審認容──民法770条4号は棄却。不貞は破綻後、破綻の原因はお嬢様育ちで、自己中心的、享楽的、家事不得手の妻にある。妻の実家から援助されているので財産分与は1000万円(東京高裁S57.8.31判時1056.179) | |
⑧ | 交通事故による夫の身体障害(妻が提訴) | 婚姻の維持は可能、両者の愛情は枯死していない | 破綻の程度──1審棄却・控訴審認容──夫の妻に対する愛情は察するに余りあるが、妻に犠牲を強いる結果になりかねず、夫婦関係継続の意思の喪失により破綻している──子の親権者は妻(東京高裁S52.4.13判時857.77) | |
⑨ | 妻の強度の精神病(夫が提訴) | 病気は軽快している、精神病の一事で離婚理由ありと解すべきではない | 民法770条1項4号「強度の精神病」の解釈──認容──回復は予想しがたいし、精神病の一事で離婚理由としたわけではない。妻は婚姻当初から性格が変わっていて異常の行動あり(最高裁S45.11.24判時616.67) | |
⑩ | 膣炎による膣部の異常な臭気(夫が提訴) | 結婚は女の一生をかけたもの、肉体的欠点のみ捉えた夫が反省すれば幸福な結婚生活を送られる、夫に不貞あり | 破綻の程度と責任──棄却──夫は享楽的、妻は保守的等、性格に離反要因があり改善は容易ではないが、妻の病気が治癒した後も過大にこれを責めるのは世上例を見ない(広島地裁S47.11.27判時548.90) |